甲状腺の病気

甲状腺はのどぼとけの下にある大きさ4cmほどの蝶形の臓器で、甲状腺ホルモン(T4とT3)を分泌しています。このホルモンは大変重要で、人体の正常な成長・発達や機能に必須です。甲状腺の病気は比較的多く、わが国では成人の10~15%程度に何らかの異常が認められます。また、疾患にもよりますが、男性に比し女性に2~5倍程度異常が多いとされています。

甲状腺自体の異常により血液中の甲状腺ホルモンが過剰になると下垂体から分泌され甲状腺機能を調節する甲状腺刺激ホルモン(TSH)は減少し、逆に甲状腺ホルモンが不足するとTSHは増加します。

1. バセドウ病

この病気の原因はよく分かっていませんが、体質が関係していると考えられています。バセドウ病ではからだの中に甲状腺を刺激する物質(自己抗体:TSHレセプター抗体)ができ、そのために甲状腺が刺激され、腫れて大きくなりホルモンを過剰に分泌するようになります。この結果、動悸、頻脈(脈が速い)、体重減少、手のふるえ、暑がりなどの甲状腺ホルモン過剰症状が出現します。また、この自己抗体などは眼球の後ろ側にも作用することがあり、その結果、眼球が突出することもあります。過剰な甲状腺ホルモンは心臓の拍動の乱れ(不整脈)を引き起こすこともあります。

バセドウ病には3種類の治療法があります。飲み薬(抗甲状腺薬:メルカゾール プロパジール)で治療する場合には、少なくとも1年以上薬を飲み続けることが必要で、症状がなくなったからといって勝手に薬をやめることは禁物です。また、無機ヨウ素(ヨウ化カリウム)で甲状腺ホルモンを低下させることもあります。薬で治りにくい場合や、副作用で薬が使えない場合には、手術で甲状腺の一部を切り取って治療することもあります。また、放射性ヨウ素を服用して治療することもあり、米国などでよく行われています。

2. 慢性甲状腺炎(橋本病)

1912年、日本人医師橋本策によって初めて報告された病気です。この病気も原因はよく分かっていませんが、バセドウ病との関連が認められることもあります。甲状腺に慢性の炎症が起き、甲状腺が少し腫れてくる人が多いようです。長期的にこの病気が続くと、徐々に甲状腺の働きが悪くなり甲状腺ホルモンが不足してくることもあります。そうなると、徐脈(脈が遅い)、体重増加、寒がり、便秘、コレステロール増加、声がれなどの甲状腺ホルモン不足症状が出現し、重症では意識が低下することもあります。定期的に血液中のホルモンを測定する必要があります。なお、昆布・ひじき等の海藻類などヨウ素の多い食品の過剰摂取や、ヨウ素含有うがい薬使用時に甲状腺の働きが悪くなることがありますので、これらは避けてください。ホルモンが不足している場合には補充のため甲状腺ホルモンの錠剤(チラーヂンSなど)を服用する必要があります。

3. 無痛性甲状腺炎

橋本病の患者さんなどで、分娩後などに一時的に甲状腺に激しい炎症がおき、組織が破壊されホルモンが漏れて出てくるようになることがあり、無痛性甲状腺炎と呼ばれています。血液中に甲状腺ホルモンが増え動悸などのバセドウ病と同じような甲状腺ホルモン過剰症状が出現します。2~3ヶ月後に甲状腺の働きが一時的に低下しホルモン不足となることがありますが、様子を見ているうちに自然に良くなることが多いようです。一部の患者さんでは甲状腺の働きが悪くなったまま元に戻らなくなり、甲状腺ホルモン剤の服用が必要になることもあります。

橋本病の患者さんが体調の変化などにより、甲状腺の痛みや発熱を起こしてくる場合もあり、慢性甲状腺炎の急性憎悪と呼ばれます。

4. 亜急性甲状腺炎

ウイルス感染などにより、痛みを伴って甲状腺が硬く腫れてくる病気です。炎症のため甲状腺組織が破壊されホルモンが血液中に漏れて出てくるようになり、一時的に動悸などの甲状腺ホルモン過剰症状が出現することがあります。鎮痛薬をのんで様子を見ていればたいていよくなって来ることが多いようです。炎症がおさまると、一時的に甲状腺ホルモンの不足状態になった後、甲状腺の働きが正常に戻ることが多いようです。

5. 腺腫様甲状腺腫

甲状腺にしこり(結節)ができる病気のひとつです。軟らかいしこりが複数でき、しこりの中に一部液体がたまることが多いようです。良性の病気で、通常は甲状腺の働きは正常です。

6. 甲状腺嚢胞

甲状腺の中に液体のたまった袋ができる良性の病気です。甲状腺の働きは正常です。

7. 甲状腺濾胞腺腫

良性の腫瘍で、通常は甲状腺内に一個だけ結節ができます。一般に、甲状腺の働きは正常です。癌との区別が困難なこともあります。

8. 甲状腺癌

乳頭癌、濾胞癌、未分化癌、髄様癌などがあります。このうち約80%が進行の遅い乳頭癌です。甲状腺に硬いしこりができ、放置するとまわりのリンパ節などに移転することもあります。

5,6,7,8,の鑑別は、専門医による触診、超音波検査、吸引細胞診検査などでできますが、鑑別が困難な場合もあります。癌の疑いがある一定以上の大きさの腫瘍は専門医による手術が必要です。また良性の場合でも、しこりが大きい場合には、気管などを圧迫することがあるので手術をした方がよいでしょう。

9. 妊娠と甲状腺機能

妊娠は甲状腺機能に影響を与え、また、甲状腺機能異常は流産、早産、胎盤内発育不全などを引き起こし妊娠に影響します。したがって、妊娠を希望する方では妊娠前から注意が必要です。

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