甲状腺内科の最新医療情報
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潜在性甲状腺機能亢進症
2018年7月4日 更新
最も権威のある臨床医学専門誌の一つであるNew England Journal of Medicineの最新号に潜在性甲状腺機能亢進症に関する論文が掲載されましたので、簡単にご紹介します。
甲状腺機能亢進症では血中の甲状腺ホルモン(FT3、FT4)が上昇、TSHが低下し、動悸、手指のふるえ、体重減少などの症状が出現します。一方、潜在性甲状腺機能亢進症は血中甲状腺ホルモン(FT4、FT3)は正常範囲内(通常、正常範囲内の中央以上)ですが、TSHが正常下限を下回る状態で、一般的には自覚症状は認められません。多くの患者ではTSHは0.1から0.4 mU/Lの範囲内ですが、一部の患者では0.1 mU/L以下になります。
原因
バセドウ病、機能性甲状腺結節、甲状腺ホルモン製剤の過剰投与などが原因。
影響
- 甲状腺機能亢進症への移行: TSHが0.1 mU/L以下である場合には、この状態が持続するか、あるいは、明らかな甲状腺機能亢進症に移行することがあります。
- 心血管病: TSHが0.1以下の場合、心房細動、心不全、心血管死が増加する可能性があります。また、加齢とともに心房細動のリスクが増加することも報告されています。
- 骨減少・骨折: 特にTSH0.1 mU/L以下の場合、骨粗鬆症による骨折のリスクが上昇します。また、軽症の潜在性甲状腺機能亢進症でも骨折リスクが上昇するという報告もあります。
- 認知症: 潜在性甲状腺機能亢進症と認知症の関連はよく知られています。70歳代のTSH0.1 mU/L以下の潜在性甲状腺機能亢進症では認知症のリスクが上昇すると報告されています
評価
高齢者では一般的に無症状ですが、若年者では頻脈、手指のふるえなどの症状が出現することもあります。潜在性甲状腺機能亢進症でなくても、TSH分泌を抑制する薬の服用(ドパミン、ブロモクリプチン、高用量のグルココルチコイドなど)、視床下部・下垂体疾患、精神疾患、妊娠第1三半期(妊娠14週未満)、妊娠悪阻などでも、TSHが低値を示すことがあるので注意が必要です。
血液検査で潜在性甲状腺機能亢進症を認めた場合には、2〜3ヶ月後に再検査が必要です。
治療
65歳以上の高齢者や閉経後女性、また、骨粗鬆症などの骨減少状態や心血管病を合併している患者では、潜在性甲状腺機能低下症が持続することによる悪影響が大きいため、治療が望ましいと考えられます。これらの患者で、特にTSH0.1 mU/L以下の場合には治療が必要です。
一方、一般成人でこれらの合併症がなければ、潜在性甲状腺機能低下症は、通常、経過観察しますが、TSH0.1 mU/L以下の場合には治療が望ましいと考えられます。
わが国では成人の約1.7%が潜在性甲状腺機能亢進症該当するといわれています。現在、日本甲状腺学会は潜在性甲状腺機能亢進症の診療ガイドラインを作成中です。
論文(英語):
DOI: 10.1056/NEJMcp1709318
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TSHの低値と死亡率・大腿骨骨折との関係
2017年9月25日 更新
血液中の甲状腺ホルモンが増加するとTSH(甲状腺刺激ホルモン)が低下し、逆に甲状腺ホルモンが減少するとTSH値は上昇します。このように、TSH値は甲状腺ホルモンの状態を鋭敏に反映する重要な指標です。最近、米国内分泌学会の学会誌にTSHの低値と死亡率、および、大腿骨頸部骨折との関連がそれぞれ報告されました。
初めの論文はデンマークからで、23万人の住民の中でTSHが正常下限以下の状態が複数回持続していた人々の平均9年間の死亡率を調査した研究です。平均年齢は51〜66歳でした。年齢などで調整すると、TSH低値の期間が6ヶ月存在するごとに死亡率が11〜15%高かったとのことです。これはTSH低値が5年間持続すると死亡率が約2倍になることになります。
論文(英語)
DOI: 10.1210/jc.2017-00166
次の論文は欧米諸国の共同研究で13の研究(合計62,000人)をまとめて解析したものです。対象者は成人や高齢者でした。TSH値が正常範囲内であった人々のうち、TSHが正常下限であった人々はTSHが正常上限であった人々に比べると大腿骨頸部骨折のリスクが約25%増加していたとのことです。
論文(英語)
DOI: 10.1210/jc.2017-00294
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妊娠と甲状腺機能検査
2017年4月12日 更新
先月お知らせした米国甲状腺学会「妊娠中および分娩後における甲状腺疾患の診断と治療に関するガイドライン2017」に記された、妊娠希望者、あるいは、妊娠初期にTSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定すべき対象者のリストは以下の通りです。
- 甲状腺機能異常(甲状腺機能低下症あるいは甲状腺機能亢進症)の既往、あるいは甲状腺機能異常の症状・徴候
- 甲状腺自己抗体陽性、あるいは、甲状腺腫の存在
- 頭頚部への放射線照射歴、あるいは、甲状腺手術歴
- 30歳以上
- 1型糖尿病、あるいは、他の自己免疫疾患
- 流産、早産、不妊の既往
- 2回以上の経産婦
- 自己免疫性甲状腺疾患、あるいは、甲状腺機能異常の家族歴
- 病的肥満(BMI40以上)(日本ではBMI30以上か?)
- アミオダロンやリチウムの服用、あるいは、最近の造影剤検査
- ヨウ素不足の地域に在住(日本には該当しない)
論文(英語)
http://online.liebertpub.com/doi/pdfplus/10.1089/thy.2016.0457
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妊娠と甲状腺機能低下症
2017年3月13日 更新
米国甲状腺学会は「妊娠中および分娩後における甲状腺疾患の診断と治療に関するガイドライン」を改定し、その機関誌Thyroid2017年3月号に掲載しました。ここでは、甲状腺機能低下症に関する部分から抜粋してお知らせします。
妊娠希望者に関する推奨事項
- 生殖補助医療(体外受精、顕微受精、凍結融解胚移植)を受ける予定でTSH4〜10 mU/Lの場合: TSH2.5 mU/L未満となるようレボチロキシンを投与する。
- 上記でTSH2.5〜4の場合: 少量のレボチロキシン投与を考慮する。
- 治療中の甲状腺機能低下症で妊娠希望の場合: TSH正常下限〜2.5に維持する。
妊娠診断後の推奨事項
- 抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)または抗サイログロブリン(Tg)抗体陽性で甲状腺機能正常の場合: 妊娠診断後、妊娠中期終了まで毎月TSHを測定する。
-
妊娠中でTSH>2.5の場合、抗TPO抗体を測定する。
- レボチロキシンを投与するのは
- 抗TPO抗体陽性でTSH>4の場合
- 抗TPO抗体陰性でTSH>10の場合
- レボチロキシン投与を考慮するのは
- 抗TPO抗体陽性でTSH2.5〜4の場合
- 抗TPO抗体陰性でTSH4〜10の場合
- レボチロキシン投与が
勧められないのは - 抗TPO抗体陰性でTSH<4の場合
TSH正常下限〜2.5
論文(英語)
http://online.liebertpub.com/doi/pdfplus/10.1089/thy.2016.0457
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潜在性甲状腺機能異常と認知機能
2016年12月1日 更新
血液中の甲状腺ホルモン濃度に異常をきたす甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症は認知機能障害の原因となることが知られています。一方、血中の甲状腺ホルモン濃度は正常範囲内であるが、TSH濃度が高値の場合潜在性甲状腺機能低下症、TSHが低値の場合潜在性甲状腺機能亢進症と呼ばれ、いずれも軽度の甲状腺機能異常であると考えられています。これらの潜在性甲状腺機能異常症が認知機能の低下と関連しているかについて検討した多数の研究をまとめて解析した結果が米国内分泌学会の機関誌に報告されました。
全体をまとめると、合計16,805人を平均44ヶ月間経過観察した結果となります。これらの研究をまとめると、潜在性甲状腺機能亢進症では、甲状腺機能正常に比し、認知症の発症が67%増加するという結果になりました。一方、潜在性甲状腺機能低下症は認知症や認知機能低下との間に有意な関連を示さないという結果でした。今後、より大規模な調査研究が望まれます。
論文(英語)
http://press.endocrine.org/doi/abs/10.1210/jc.2016-2129
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