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1型糖尿病における運動時の血糖管理(2)

2017年6月6日 更新

前回ご紹介した1型糖尿病患者の運動時の血糖マネージメントに関するコンセンサスの続きです。なお、実際の運動時の対応に関しては主治医にご相談ください。

耐久(有酸素)運動時の糖質必要量

運動のパフォーマンス向上目的 インスリン減量時の低血糖防止目的 インスリン通常量時の低血糖防止目的
運動前の食事 運動の強度・持続時間に応じた体重1kg当たり1g以上の糖質。 運動の強度・持続時間に応じた体重1kg当たり1g以上の糖質。 運動の強度・持続時間に応じた体重1kg当たり1g以上の糖質。
運動直前の食事・スナック 糖質不要。 血糖90 mg/dL未満なら10~20 gの糖質。 血糖90 mg/dL未満なら20~30 gの糖質。
運動後の食事 体重1kg当たり1~1.2gの糖質 スポーツ栄養ガイドラインに従う(血糖管理目的でインスリン調節必要) スポーツ栄養ガイドラインに従う(血糖管理目的でインスリン調節必要)
30分間までの運動 糖質不要。 血糖90 mg/dL未満なら10~20 gの糖質。 15~30 gの糖質。
30~60分間の運動 1時間当たり10~15 gの糖質。
  • 低~中程度の有酸素運動: 1時間当たり10~15 gの糖質。
  • 高強度の無酸素運動: 不要。但し、運動中の血糖90 mg/dL未満なら10~20 gの糖質。運動後に糖質補給。
30分ごとに15~30 gまでの糖質が必要となる可能性あり。
60~150分間の運動 1時間当たり30~60gの糖質。 1時間当たり30~60gの糖質。 1時間当たり75gまでの糖質。
150分間以上の運動 20~30 gの糖質を20分ごと程度に。
ブドウ糖と果糖など腸吸収機序が異なるものを組み合わせる。
20~30 gの糖質を20分ごと程度に(血糖管理目的でインスリン調節必要)。 20~30 gの糖質を20分ごと程度に(血糖管理目的でインスリン調節必要)。

論文(英語)
http://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(17)30014-1/abstract

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1型糖尿病における運動時の血糖管理(1)

2017年5月26日 更新

運動は循環器系や代謝などに対して望ましい効果をもたらすことから、糖尿病の有無にかかわらず推奨されています。最近、欧米豪の多数の研究者によって1型糖尿病患者の運動時の血糖マネージメントに関するコンセンサスが発表されましたので一部をご紹介します。なお、実際の運動時の対応に関しては主治医にご相談下さい。

運動の種類

  • 有酸素運動: 歩行、サイクリング、ジョギング、水泳など。大きな筋肉を繰り返し動かす運動で、主に酸素を利用して運動エネルギーを産生する。
  • レジスタンス運動: おもり、機器、体重、弾性バンドなどを抵抗として利用し、主に無酸素的に生成されたエネルギー産生を利用する。
  • 高強度インターバル運動: 激しい運動と軽い運動を短時間に繰り返す。

健常者での運動中の代謝

健常者では運動中にほとんど血糖値は変化しない。有酸素運動中にはインスリン分泌が減少、グルカゴン分泌が増加し、肝臓からのブドウ糖放出を促進させ、筋肉でのブドウ糖消費を補う。運動は、インスリンとは無関係に、筋肉でのブドウ糖の取り込みを促進させる。グルカゴン以外のインスリン拮抗(血糖上昇)ホルモンも増加し、肝臓でのブドウ糖産生・放出を促進させる。

1型糖尿病での運動中の血糖値

血中インスリンが低下しないため、肝臓からのブドウ糖放出が増加せず、有酸素運動中には血糖が低下する。通常、有酸素運動開始から45分程度すると血糖が低下し始める。従って、有酸素運動の前に糖質の摂取かインスリン減量、あるいは両者が必要となる。なお、インスリンは皮下注射で投与されているため、投与量を減量してもすぐには血中インスリンが低下しないことに注意が必要である。

レジスタンス運動や高強度インターバル運動では、インスリン拮抗ホルモンの上昇などにより、有酸素運動に比し、血糖値は低下せず、むしろ、軽度の血糖上昇をきたすことがある。全力疾走、重量あげなどの無酸素運動でも血糖が上昇することが多い。

1型糖尿病での運動後の血糖値

運動後も筋肉内のグリコーゲン貯蔵のために筋肉へのブドウ糖取り込みの亢進は持続し、運動後24時間以上に渡って低血糖のリスクが上昇する。午後の運動の場合、夜間低血糖のリスクが上昇する。

運動前の血糖値と対応

90 mg/dL未満の場合 運動前にブドウ糖10〜20gを摂取する。血糖値が90以上になるまで運動を開始しない。頻繁に血糖を測定し、低血糖でないか確認が必要。
90〜124 mg/dLの場合 有酸素運動開始前に10gのブドウ糖を摂取する。無酸素運動や高強度インターバル運動は開始できる。
126〜180 mg/dLの場合 有酸素運動を開始できる。無酸素運動、または、高強度インターバル運動を開始できるが、血糖が上昇しうる。
182〜270 mg/dLの場合 有酸素運動を開始できる。無酸素運動を開始できるが、血糖が上昇しうる。
270 mg/dL以上の場合
高血糖の原因が不明の場合(食後でない場合)には、血中ケトン体を測定する。
中程度以上(1.5 mmol/L以上)のケトン体上昇の場合:
運動は禁忌。早速医療チームのアドバイスを受け血糖管理治療を開始する。
中程度まで(1.4 mmol/L以下)のケトン体上昇:
運動は軽いものにし、短時間(30分以内)にとどめる。運動開始時に少量の補正インスリンが必要かもしれない。
軽度、および、それ以下のケトン体(0.6未満)、または、尿ケトン体2+未満(4 mmol/L未満)の場合:
軽度〜中等度の有酸素運動は開始できる。運動中に血糖が更に上昇しないか血糖を測定すべきである。強い運動は、更に血糖を上昇させうるため、注意深く開始すべきである。

論文(英語)
http://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(17)30014-1/abstract

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妊娠と甲状腺機能検査

2017年4月12日 更新

先月お知らせした米国甲状腺学会「妊娠中および分娩後における甲状腺疾患の診断と治療に関するガイドライン2017」に記された、妊娠希望者、あるいは、妊娠初期にTSH(甲状腺刺激ホルモン)を測定すべき対象者のリストは以下の通りです。

  1. 甲状腺機能異常(甲状腺機能低下症あるいは甲状腺機能亢進症)の既往、あるいは甲状腺機能異常の症状・徴候
  2. 甲状腺自己抗体陽性、あるいは、甲状腺腫の存在
  3. 頭頚部への放射線照射歴、あるいは、甲状腺手術歴
  4. 30歳以上
  5. 1型糖尿病、あるいは、他の自己免疫疾患
  6. 流産、早産、不妊の既往
  7. 2回以上の経産婦
  8. 自己免疫性甲状腺疾患、あるいは、甲状腺機能異常の家族歴
  9. 病的肥満(BMI40以上)(日本ではBMI30以上か?)
  10. アミオダロンやリチウムの服用、あるいは、最近の造影剤検査
  11. ヨウ素不足の地域に在住(日本には該当しない)

論文(英語)
http://online.liebertpub.com/doi/pdfplus/10.1089/thy.2016.0457

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EPA、DHAサプリメントと心血管疾患の予防

2017年3月17日 更新

−アメリカ心臓協会からの勧告−

2017年3月13日、アメリカ心臓協会(AHA)は心血管疾患予防の目的でのオメガ3(EPA、DHA)サプリメントの投与に関し、複数の無作為化対照試験の結果を基に科学的勧告を公表しましたので、下の表にまとめました。なお、今回の勧告で取り上げられた無作為化対照試験にはわが国で行われたもの(JELIS試験)が含まれていますが、欧米で行われた数々の長期試験ではオメガ3脂肪酸の投与量がわが国での試験の約半量となっています。現在、高用量を用いた複数の試験が欧米で行われていますので、今後、見解が変わる可能性は否定できません。

対象と目的 推奨内容
一般成人での冠動脈疾患予防 不明
糖尿病・境界型糖尿病者での心血管死抑制 投与は推奨しない
心血管疾患の高リスク者での冠動脈疾患予防 投与は推奨しない(妥当とする少数意見あり)
冠動脈疾患を有する患者の再発・突然死予防 投与が妥当
高リスク者での脳卒中予防 投与は推奨しない
脳卒中の再発予防 不明
心不全の予防 不明
心不全患者の入院・死亡抑制 投与が妥当
心房細動の予防 不明
心房細動既往者での再発予防 投与は推奨しない
心臓手術後の心房細動予防 投与は推奨しない

論文(英語)
http://circ.ahajournals.org/content/early/2017/03/13/CIR.0000000000000482

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妊娠と甲状腺機能低下症

2017年3月13日 更新

米国甲状腺学会は「妊娠中および分娩後における甲状腺疾患の診断と治療に関するガイドライン」を改定し、その機関誌Thyroid2017年3月号に掲載しました。ここでは、甲状腺機能低下症に関する部分から抜粋してお知らせします。

妊娠希望者に関する推奨事項

  1. 生殖補助医療(体外受精、顕微受精、凍結融解胚移植)を受ける予定でTSH4〜10 mU/Lの場合: TSH2.5 mU/L未満となるようレボチロキシンを投与する。
  2. 上記でTSH2.5〜4の場合: 少量のレボチロキシン投与を考慮する。
  3. 治療中の甲状腺機能低下症で妊娠希望の場合: TSH正常下限〜2.5に維持する。

妊娠診断後の推奨事項

  1. 抗甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)または抗サイログロブリン(Tg)抗体陽性で甲状腺機能正常の場合: 妊娠診断後、妊娠中期終了まで毎月TSHを測定する。
  2. 妊娠中でTSH>2.5の場合、抗TPO抗体を測定する。
    レボチロキシンを投与するのは
    抗TPO抗体陽性でTSH>4の場合
    抗TPO抗体陰性でTSH>10の場合
    レボチロキシン投与を考慮するのは
    抗TPO抗体陽性でTSH2.5〜4の場合
    抗TPO抗体陰性でTSH4〜10の場合
    レボチロキシン投与が
    勧められないのは
    抗TPO抗体陰性でTSH<4の場合
    レボチロキシン投与の際の治療目標 
    TSH正常下限〜2.5

論文(英語)
http://online.liebertpub.com/doi/pdfplus/10.1089/thy.2016.0457

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