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SGLT2阻害薬カナグリフロジンによる心血管および腎イベントの減少

2017年6月15日 更新

2015年SGLT2阻害薬エンパグリフロジンにより、心血管疾患の既往者において、複合心血管イベント(心血管死+非致死性心筋梗塞+非致死性脳卒中)が減少し、特に心血管死および心不全入院が大きく減少することが報告されました(EMPA-REG OUTCOME研究)。また、2016年にはこの同じ研究で、腎障害の進行も防止できる可能性が示唆されました。そこで、このエンパグリフロジンの心臓や腎臓に対する有益な効果が他のSGLT2阻害薬にも認められるか、また、心血管疾患を診断されていない2型糖尿病患者でも同様の効果が認められるかに関して検証が待たれていました。6月12日米国糖尿病学会において、やはりSGLT2阻害薬であるカナグリフロジンの効果が報告され、同時に論文として公開されました。結論として、カナグリフロジンでも、また、心血管疾患を診断されていない患者でもEMPA-REG OUTCOME研究と同様の効果が期待できると考えられます。

論文抄録

カナグリフロジンは高血糖改善以外に血圧、体重、尿アルブミンを低下させる効果を持っています。今回、心血管病発症リスクが高い10,142人の2型糖尿病患者を無作為にカナグリフロジンまたはプラセボ(偽薬)に割り付け平均188.2週間治療しました。一次アウトカムは心血管死+非致死性心筋梗塞+比致死性脳卒中の複合心血管イベントでした。

患者の平均年齢は63.3歳で、35.8%が女性でした。平均糖尿病罹病期間は13.5年間で、65.6%が心血管疾患の既往を有していました。カナグリフロジン群ではプラセボ群に比し一次アウトカムが統計学的に有意に減少していました(1000人年当たり26.9と31.5、ハザード比0.86(95%信頼限界0.75-0.97)、P=0.02で優越性あり)。あらかじめ規定された仮説検定手順により腎アウトカムには有意差検定は適応されませんでしたが、アルブミン尿の進行(ハザード比0.73(0.67-0.79)、および、糸球体ろ過率の40%以上の低下+腎代替療法開始+腎臓が原因での死亡の複合腎アウトカム(ハザード比0.60(0.47-0.77))においてベネフィットを有する可能性が示されました。有害事象はかねてから指摘されているもの以外に、下肢切断(主に足趾、中足切断)の増加(1000人年当たり6.3と3.4、ハザード比1.97(1.41-2.75))が認められました。

解説

わが国では心血管疾患による死亡率は、糖尿病患者では非糖尿病者に比し、男性で約2倍、女性で2~4倍の高率になっており、糖尿病患者の心血管死抑制は重要な課題です。

今回の論文から、カナグリフロジンにおいてもエンパグリフロジンと同様の心血管死・心血管病予防効果、腎障害進行防止効果が認められると考えられます。従って、この様な効果はSGLT2阻害薬全般に認められる可能性が高いと考えられます。また、一次アウトカムに関し心血管疾患の有無によって統計学的に有意な差は認められず、心血管疾患を有していない患者においても基本的に同様の効果を示す可能性が考えられます。

カナグリフロジン群とプラセボ群のHbA1cの差は0.58%、体重差は1.6 kg、収縮期血圧の差は3.9 mmHg、拡張期血圧の差は1.9 mmHgでした。HbA1cの差が少ないことから、今回認められた複合心血管イベント抑制効果が高血糖改善作用だけでもたらされたとは考えにくく、2型糖尿病患者の予後を改善させる治療薬として単なる高血糖改善以外にSGLT2阻害薬がはたす役割が大きいと考えられます。なお、今回のカナグリフロジンの研究とEMPA-REG OUTCOME研究とは対象患者が異なるため、心血管アウトカムの抑制に関し、エンパグリフロジンとカナグリフロジンとの優劣は比較できません。また、まれな有害事象ではありますが、エンパグリフロジンや他のSGLT2阻害薬においても下肢切断リスクの評価が必要と考えられます。なお、この研究には韓国などアジアを含む多数の国が参加しましたが、日本は参加していませんでした。

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