脂質代謝内科の最新医療情報

最新医療情報は主に Facebook でご紹介しています。

飽和脂肪酸過剰摂取による肝臓内中性脂肪の増加

2018年6月4日 更新

肝臓内の中性脂肪が増加する非アルコール性脂肪肝は糖尿病や心血管疾患のリスクを上げます。肝臓内で中性脂肪の原料になる脂肪酸は、脂肪分解によって脂肪細胞から放出された脂肪酸が肝臓に取り込まれたもの、肝臓内で糖質が脂肪酸に変わったもの、および、食事で摂取して肝臓に取り込まれたものです。今回、同じカロリーでも摂取する栄養素の種類により肝臓内中性脂肪の増加程度が異なることが報告されました。

北欧での研究ですが、38人の肥満者に毎日1000キロカロリーを余分に摂取させた実験です。バター・ココナツ油・チーズなどの飽和脂肪酸を多く摂取させる群、オリーブ油・ナッツなどの不飽和脂肪酸を多く摂取させる群、オレンジジュース・甘味飲料・キャンディーなど糖類(糖質の中でブドウ糖、果糖などの単糖類と砂糖などの二糖類を合わせたもの)を多く摂取させる群の3群に分け、3週間摂取させました。

肝臓内中性脂肪は飽和脂肪酸を過剰摂取した群で平均55%、不飽和脂肪酸を過剰摂取させた群で平均15%、糖類を過剰摂取させた群では平均33%増加しました。飽和脂肪酸過剰摂取群では脂肪細胞での脂肪分解が促進され、インスリン抵抗性が増加しました。

カロリーの過剰摂取、特に飽和脂肪酸や糖類の過剰摂取は避けた方がよいと考えられます。

論文(英語):
https://doi.org/10.2337/dc18-0071

関連キーワード

心血管病を予防する脂質摂取: アメリカ心臓協会会長からの勧告

2017年6月20日 更新

心筋梗塞や脳梗塞などの心血管病を予防するための脂質摂取に関する勧告です。2017年6月15日アメリカ心臓病協会の機関誌Circulationにオンライン速報されました。脂質は量ではなく質が重要であり、摂取する動物性飽和脂肪酸を植物性多価不飽和脂肪酸(n-6、リノール酸など)に変更することが強く求められています。低脂肪食が求められているのではありません。なお、この勧告は動物性飽和脂肪酸摂取が多い米国向けのものであり、わが国では飽和脂肪酸摂取量は多くなく糖質摂取が過剰の傾向のため、むしろ、糖質の過剰摂取を避け、植物性多価不飽和脂肪酸(n-6、リノール酸など)を増量させるということが厚労省の方針(2015年から実施)となっています。しかし、LDLコレステロールが高値の方は、やはり、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸で置き換えてください。

n-6多価不飽和脂肪酸であるリノール酸は一般的なサラダ油、天ぷら油などに多く含まれています。
なお、植物油でもパーム油やココナッツ油には飽和脂肪酸が多く含まれており勧められません。

なお、肥満に対しても低脂肪食が優れている訳ではないことが2015年に論文として公表されています。

  • 無作為化比較試験では、摂取する動物性飽和脂肪酸を植物性多価不飽和脂肪酸で置き換えると(動物性飽和脂肪酸を減らし、植物性多価不飽和脂肪酸を増やすと)心血管病が減少することが示されている。
  • 飽和脂肪酸を含む総脂質を炭水化物で置換しても(脂質を減らし高炭水化物を増やしても)冠動脈疾患は減少しない。
  • 大規模な前向き観察研究では、飽和脂肪酸摂取が少なく、多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸摂取が多いと心血管病発症率や死亡率が低いことが示されている。
  • 飽和脂肪酸は、動脈硬化や心血管病の主な原因であるLDLコレステロールを増加させ、多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸で置換するとLDLコレステロールが減少する。
  • 飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸で置換すると、中性脂肪が減少する。
  • 飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸で置換すると、動脈硬化が予防・改善される(ヒト以外の霊長類で示されている)。
  • 様々な根拠から、飽和脂肪酸の置換に際しては、多価不飽和脂肪酸(主にn-6、リノール酸)のほうが、一価不飽和脂肪酸(主にオレイン酸)より、心血管病を、若干、より強く予防すると考えられる。
  • 上記は、一般的な健康食、例えば野菜・全果物・ナッツ・蛋白質などをバランスよく摂取するDASH食や地中海食、また、良質な炭水化物(全粒穀物や全果実)の摂取と共に行われることが必要である。
関連キーワード

EPA、DHAサプリメントと心血管疾患の予防

2017年3月17日 更新

−アメリカ心臓協会からの勧告−

2017年3月13日、アメリカ心臓協会(AHA)は心血管疾患予防の目的でのオメガ3(EPA、DHA)サプリメントの投与に関し、複数の無作為化対照試験の結果を基に科学的勧告を公表しましたので、下の表にまとめました。なお、今回の勧告で取り上げられた無作為化対照試験にはわが国で行われたもの(JELIS試験)が含まれていますが、欧米で行われた数々の長期試験ではオメガ3脂肪酸の投与量がわが国での試験の約半量となっています。現在、高用量を用いた複数の試験が欧米で行われていますので、今後、見解が変わる可能性は否定できません。

対象と目的 推奨内容
一般成人での冠動脈疾患予防 不明
糖尿病・境界型糖尿病者での心血管死抑制 投与は推奨しない
心血管疾患の高リスク者での冠動脈疾患予防 投与は推奨しない(妥当とする少数意見あり)
冠動脈疾患を有する患者の再発・突然死予防 投与が妥当
高リスク者での脳卒中予防 投与は推奨しない
脳卒中の再発予防 不明
心不全の予防 不明
心不全患者の入院・死亡抑制 投与が妥当
心房細動の予防 不明
心房細動既往者での再発予防 投与は推奨しない
心臓手術後の心房細動予防 投与は推奨しない

論文(英語)
http://circ.ahajournals.org/content/early/2017/03/13/CIR.0000000000000482

関連キーワード

飽和脂肪酸摂取とインスリン抵抗性

2017年1月24日 更新

動物性脂肪の主成分である飽和脂肪酸の過剰摂取は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)やインスリン抵抗性をもたらすことが知られています。本年1月23日、飽和脂肪酸を1回大量に摂取するだけで、肝臓内の脂肪が35%増加し、全身、肝臓、脂肪組織のインスリン感受性が、それぞれ25%、15%、35%低下することが報告されました。

なお、以前に、他の研究者から、10週間にわたって投与した研究で植物油の主成分である多価不飽和脂肪酸リノール酸は飽和脂肪酸に比し、肝臓内の脂肪は増加させず、むしろ代謝状態を改善させることが報告されています。

論文(英語) http://www.jci.org/articles/view/89444

論文(英語) http://ajcn.nutrition.org/content/95/5/1003.full

関連キーワード

食後中性脂肪の危険性

2016年11月8日 更新

糖尿病やメタボリックシンドロームの患者さんでは、空腹時や食後に血液中の中性脂肪が上昇しやすいことが知られています。
2016年11月7日米国医師会内科学誌でオンライン公開されたデンマークの研究で、食後の中性脂肪の上昇が心筋梗塞や急性膵炎の発症リスクと関連していることが報告されました。約12万人のコペンハーゲン住民を7年間経過観察したところ、食後の中性脂肪(トリグリセライド)が89 mg/dL未満の人に比べ89ー176 mg/dLの人では心筋梗塞の発症が1.6倍、急性膵炎の発症も1.6倍、177−265 mg/dLではそれぞれ2.2倍と2.3倍、266−353 mg/dLでは3.2倍、2.9倍、354−442 mg/dLでは2.8倍、3.9倍、443 mg/dL以上では3.4倍、8.7倍であったとのことです。なお、実際の患者数は急性膵炎に比べ心筋梗塞が10倍近く多かったとのことです。

一般的に、空腹時に比べ食後には中性脂肪が上昇します。空腹時や食後の中性脂肪値は糖質の多い食事の摂取が続くと上昇し、特に糖尿病やメタボリックシンドロームの患者さんでは上昇しやすいことが知られています。したがって、糖質を過剰に摂取しないよう注意が必要です。2015年、厚生労働省はそれまでの日本人の食事摂取基準を改定し、一般成人の糖質(炭水化物)の摂取上限を総摂取カロリーの70%から65%へと下方修正し、これに合わせて脂質の摂取上限を25%から30%に上方修正しました。いわゆる健康食の概念が変わってきていますので、今後このサイトでも取り上げていきたいと思います。

論文(英語)
http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2580722

関連キーワード
最新医療情報
内科
糖尿病内科
甲状腺内科
脂質代謝内科
循環器内科
その他

ページの先頭へ