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心血管病を予防する脂質摂取: アメリカ心臓協会会長からの勧告

2017年6月20日 更新

心筋梗塞や脳梗塞などの心血管病を予防するための脂質摂取に関する勧告です。2017年6月15日アメリカ心臓病協会の機関誌Circulationにオンライン速報されました。脂質は量ではなく質が重要であり、摂取する動物性飽和脂肪酸を植物性多価不飽和脂肪酸(n-6、リノール酸など)に変更することが強く求められています。低脂肪食が求められているのではありません。なお、この勧告は動物性飽和脂肪酸摂取が多い米国向けのものであり、わが国では飽和脂肪酸摂取量は多くなく糖質摂取が過剰の傾向のため、むしろ、糖質の過剰摂取を避け、植物性多価不飽和脂肪酸(n-6、リノール酸など)を増量させるということが厚労省の方針(2015年から実施)となっています。しかし、LDLコレステロールが高値の方は、やはり、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸で置き換えてください。

n-6多価不飽和脂肪酸であるリノール酸は一般的なサラダ油、天ぷら油などに多く含まれています。
なお、植物油でもパーム油やココナッツ油には飽和脂肪酸が多く含まれており勧められません。

なお、肥満に対しても低脂肪食が優れている訳ではないことが2015年に論文として公表されています。

  • 無作為化比較試験では、摂取する動物性飽和脂肪酸を植物性多価不飽和脂肪酸で置き換えると(動物性飽和脂肪酸を減らし、植物性多価不飽和脂肪酸を増やすと)心血管病が減少することが示されている。
  • 飽和脂肪酸を含む総脂質を炭水化物で置換しても(脂質を減らし高炭水化物を増やしても)冠動脈疾患は減少しない。
  • 大規模な前向き観察研究では、飽和脂肪酸摂取が少なく、多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸摂取が多いと心血管病発症率や死亡率が低いことが示されている。
  • 飽和脂肪酸は、動脈硬化や心血管病の主な原因であるLDLコレステロールを増加させ、多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸で置換するとLDLコレステロールが減少する。
  • 飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸で置換すると、中性脂肪が減少する。
  • 飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸で置換すると、動脈硬化が予防・改善される(ヒト以外の霊長類で示されている)。
  • 様々な根拠から、飽和脂肪酸の置換に際しては、多価不飽和脂肪酸(主にn-6、リノール酸)のほうが、一価不飽和脂肪酸(主にオレイン酸)より、心血管病を、若干、より強く予防すると考えられる。
  • 上記は、一般的な健康食、例えば野菜・全果物・ナッツ・蛋白質などをバランスよく摂取するDASH食や地中海食、また、良質な炭水化物(全粒穀物や全果実)の摂取と共に行われることが必要である。
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SGLT2阻害薬カナグリフロジンによる心血管および腎イベントの減少

2017年6月15日 更新

2015年SGLT2阻害薬エンパグリフロジンにより、心血管疾患の既往者において、複合心血管イベント(心血管死+非致死性心筋梗塞+非致死性脳卒中)が減少し、特に心血管死および心不全入院が大きく減少することが報告されました(EMPA-REG OUTCOME研究)。また、2016年にはこの同じ研究で、腎障害の進行も防止できる可能性が示唆されました。そこで、このエンパグリフロジンの心臓や腎臓に対する有益な効果が他のSGLT2阻害薬にも認められるか、また、心血管疾患を診断されていない2型糖尿病患者でも同様の効果が認められるかに関して検証が待たれていました。6月12日米国糖尿病学会において、やはりSGLT2阻害薬であるカナグリフロジンの効果が報告され、同時に論文として公開されました。結論として、カナグリフロジンでも、また、心血管疾患を診断されていない患者でもEMPA-REG OUTCOME研究と同様の効果が期待できると考えられます。

論文抄録

カナグリフロジンは高血糖改善以外に血圧、体重、尿アルブミンを低下させる効果を持っています。今回、心血管病発症リスクが高い10,142人の2型糖尿病患者を無作為にカナグリフロジンまたはプラセボ(偽薬)に割り付け平均188.2週間治療しました。一次アウトカムは心血管死+非致死性心筋梗塞+比致死性脳卒中の複合心血管イベントでした。

患者の平均年齢は63.3歳で、35.8%が女性でした。平均糖尿病罹病期間は13.5年間で、65.6%が心血管疾患の既往を有していました。カナグリフロジン群ではプラセボ群に比し一次アウトカムが統計学的に有意に減少していました(1000人年当たり26.9と31.5、ハザード比0.86(95%信頼限界0.75-0.97)、P=0.02で優越性あり)。あらかじめ規定された仮説検定手順により腎アウトカムには有意差検定は適応されませんでしたが、アルブミン尿の進行(ハザード比0.73(0.67-0.79)、および、糸球体ろ過率の40%以上の低下+腎代替療法開始+腎臓が原因での死亡の複合腎アウトカム(ハザード比0.60(0.47-0.77))においてベネフィットを有する可能性が示されました。有害事象はかねてから指摘されているもの以外に、下肢切断(主に足趾、中足切断)の増加(1000人年当たり6.3と3.4、ハザード比1.97(1.41-2.75))が認められました。

解説

わが国では心血管疾患による死亡率は、糖尿病患者では非糖尿病者に比し、男性で約2倍、女性で2~4倍の高率になっており、糖尿病患者の心血管死抑制は重要な課題です。

今回の論文から、カナグリフロジンにおいてもエンパグリフロジンと同様の心血管死・心血管病予防効果、腎障害進行防止効果が認められると考えられます。従って、この様な効果はSGLT2阻害薬全般に認められる可能性が高いと考えられます。また、一次アウトカムに関し心血管疾患の有無によって統計学的に有意な差は認められず、心血管疾患を有していない患者においても基本的に同様の効果を示す可能性が考えられます。

カナグリフロジン群とプラセボ群のHbA1cの差は0.58%、体重差は1.6 kg、収縮期血圧の差は3.9 mmHg、拡張期血圧の差は1.9 mmHgでした。HbA1cの差が少ないことから、今回認められた複合心血管イベント抑制効果が高血糖改善作用だけでもたらされたとは考えにくく、2型糖尿病患者の予後を改善させる治療薬として単なる高血糖改善以外にSGLT2阻害薬がはたす役割が大きいと考えられます。なお、今回のカナグリフロジンの研究とEMPA-REG OUTCOME研究とは対象患者が異なるため、心血管アウトカムの抑制に関し、エンパグリフロジンとカナグリフロジンとの優劣は比較できません。また、まれな有害事象ではありますが、エンパグリフロジンや他のSGLT2阻害薬においても下肢切断リスクの評価が必要と考えられます。なお、この研究には韓国などアジアを含む多数の国が参加しましたが、日本は参加していませんでした。

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EPA、DHAサプリメントと心血管疾患の予防

2017年3月17日 更新

−アメリカ心臓協会からの勧告−

2017年3月13日、アメリカ心臓協会(AHA)は心血管疾患予防の目的でのオメガ3(EPA、DHA)サプリメントの投与に関し、複数の無作為化対照試験の結果を基に科学的勧告を公表しましたので、下の表にまとめました。なお、今回の勧告で取り上げられた無作為化対照試験にはわが国で行われたもの(JELIS試験)が含まれていますが、欧米で行われた数々の長期試験ではオメガ3脂肪酸の投与量がわが国での試験の約半量となっています。現在、高用量を用いた複数の試験が欧米で行われていますので、今後、見解が変わる可能性は否定できません。

対象と目的 推奨内容
一般成人での冠動脈疾患予防 不明
糖尿病・境界型糖尿病者での心血管死抑制 投与は推奨しない
心血管疾患の高リスク者での冠動脈疾患予防 投与は推奨しない(妥当とする少数意見あり)
冠動脈疾患を有する患者の再発・突然死予防 投与が妥当
高リスク者での脳卒中予防 投与は推奨しない
脳卒中の再発予防 不明
心不全の予防 不明
心不全患者の入院・死亡抑制 投与が妥当
心房細動の予防 不明
心房細動既往者での再発予防 投与は推奨しない
心臓手術後の心房細動予防 投与は推奨しない

論文(英語)
http://circ.ahajournals.org/content/early/2017/03/13/CIR.0000000000000482

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食後中性脂肪の危険性

2016年11月8日 更新

糖尿病やメタボリックシンドロームの患者さんでは、空腹時や食後に血液中の中性脂肪が上昇しやすいことが知られています。
2016年11月7日米国医師会内科学誌でオンライン公開されたデンマークの研究で、食後の中性脂肪の上昇が心筋梗塞や急性膵炎の発症リスクと関連していることが報告されました。約12万人のコペンハーゲン住民を7年間経過観察したところ、食後の中性脂肪(トリグリセライド)が89 mg/dL未満の人に比べ89ー176 mg/dLの人では心筋梗塞の発症が1.6倍、急性膵炎の発症も1.6倍、177−265 mg/dLではそれぞれ2.2倍と2.3倍、266−353 mg/dLでは3.2倍、2.9倍、354−442 mg/dLでは2.8倍、3.9倍、443 mg/dL以上では3.4倍、8.7倍であったとのことです。なお、実際の患者数は急性膵炎に比べ心筋梗塞が10倍近く多かったとのことです。

一般的に、空腹時に比べ食後には中性脂肪が上昇します。空腹時や食後の中性脂肪値は糖質の多い食事の摂取が続くと上昇し、特に糖尿病やメタボリックシンドロームの患者さんでは上昇しやすいことが知られています。したがって、糖質を過剰に摂取しないよう注意が必要です。2015年、厚生労働省はそれまでの日本人の食事摂取基準を改定し、一般成人の糖質(炭水化物)の摂取上限を総摂取カロリーの70%から65%へと下方修正し、これに合わせて脂質の摂取上限を25%から30%に上方修正しました。いわゆる健康食の概念が変わってきていますので、今後このサイトでも取り上げていきたいと思います。

論文(英語)
http://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/article-abstract/2580722

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